house Y / 下江津の家

計画地:熊本市
用途:専用住宅
構造:木造
敷地面積:211.96m²
建築面積:91.07m²
法定延床面積:107.35m²
計画着手:2020.5
工事竣工:2021.7

設計:矢橋徹
担当者:姫野沙紀
構造設計:白橋祐二(建築食堂)
撮影八代哲弥(八代写真事務所)
施工会社:株式会社st.LAB
掲載:
Leidal(USA)
architecture photo
新建築住宅特集 2022年11月号
受賞:
第25回 くまもとアートポリス推進賞

住宅地に建つ小さな仕事場を内包した住宅です。イヌイットは雪を描写する語彙を数十も持っていると言われます。周りに等しく存在するものが環境ではなく、個々が主体的に捉え、構築したものが環境であり、それらが無数に存在していることを示唆しています。「場に住むこと」に丁寧に答える建築のあり方を問う時、環境は主体的に捉えられたものでなければならないと考えます。

敷地は、南側と西側を住居に囲まれているものの、北側が公園、東側が隣地の畑に面しており、十分な抜けを得られる恵まれた環境です。敷地の間口いっぱいに公園と対峙する事で、駐車スペースが公園との結び付きを気薄にすることや、公園の大きなスケールと生活の切実さとの不一致を感じ、公園への直截的な反応が良好な住環境を獲得するリアリティを持てませんでした。そこで、敷地に公園側を短辺とした長方形のフットプリントを置き、公園の大きすぎるスケールを奥行きのある空間で引き受ける架構としました。

仕事場は専用の出入り口を必要とするため、公園に面して配置し、道を歩く人や公園からの視線の交錯を回避するため半地下としました。この操作をきっかけに、一階の一部を半階埋めた地上2階建、4層の床レベルからなる断面構成となります。半地下や1.5階では地面が近く感じられたり、1階は道路から隠れた静かな場所となったり、2階は抑えられた階高によって親密さを感じたり、内外の様々な距離感の中に生活を定着させていくことを考えました。

建築を覆う外皮は上半分を壁、下半分を開口とする2層の単純なつくりとしています。床のレベル差に外皮の開放と遮蔽のレイアウトが重なることで、外の風景に対して見下ろしや見渡しがうまれ、移動するごとに繋がったり閉じたりしながら場所ごとの広がりを感じられます。場所の固有性を丁寧に読み取りながら空間化していき、一様な住宅地において新たな可能性を示す建築を目指しました。