江津ハウス EZU house



計画地:熊本市
用途:兼用住宅
構造:木造
敷地面積:245.81m²
建築面積:62.29m²
法定延床面積:109.00m²
計画着手:2021.11
工事竣工:2023.4

設計:矢橋徹、上野拓美
担当者:矢橋徹、上野拓美
構造設計:白橋祐二(建築食堂)
施工会社:有限会社 熊本建設

掲載:

新建築住宅特集 2023年6月号
ArchDaily(USA)
designboom(ITA)
gooood(CN)
Leibal(USA)
Archello(NLD)
受賞:
第12回JIA熊本住宅賞
第27回くまもとアートポリス推進賞

環境の一部になるための治具

敷地は湧水公園のほとりに位置し、その湖岸道路沿いにミニ開発された住宅地の一角にあります。敷地は湖岸に沿って段上がりの地形になっているため、敷地からは隣地の庭や住宅の屋根の連なりが見渡せ、遠くにある山々なども望ます。様々な距離感にある景色や方位ごとの広がりが散在している環境です。

計画は1階をカフェとした2階建ての兼用住宅です。施主は、この住宅を当面ウィークエンドハウスとして使いながら、徐々に暮らしを移していくことを計画していたため、生活を規定せず、変化に適応できる空間が求められました。施主は2つの住まいを持つことになります。一つは日常を守る家、もう一つは開放的なヴィラ、施主はこの二つの住宅を行き来しながら生活を拡張します。

敷地に正方形プランを置き、上階の床を対角線で分節しました。床をスキップさせて地面とのパラメータを増やし、螺旋状の縦移動でつなげることで、場所ごとに様々なパースペクティブを持った3層構成としました。各フロアは最小限の機能に抑え、家具や植物で自由に場が作れる「がらんどうの空間」です。

1階の店舗エリアと上階の住居エリアは、対角線上に配置した耐力壁で断片的に仕切るだけにとどめ、2層分の開放的な空間と低い親密な空間、異なるスケールの空間が交互に連続する立体的なワンルームです。さらに、外部の豊かな環境を関係付けするため、耐震要素の軸組に、耐風・断熱・開口のための外皮が巻きついた二重架構とし、開口の自由度を上げています。

あらゆる方向に設けた窓は、内部に間仕切がないこともあって身体の位置や移動に合わせて隣り合うフロアの窓越しから空や緑が見えたり、突然視線が抜けたり、どこにいても外を感じられる開放感を生み、場所の豊かさそのものに住んでいるようなおおらかさを感じさせます。

この住宅は、極端に言えば床、外皮、開口を道具立てして組み立てられているだけです。しかし、その他者的な形象は環境を内なるものとして繋ぎとめ、生活が環境の一部になるための治具となります。